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| 平田甲太郎家文書<重兵衛酒小売株争いの一件 天保5(1834)年 文書№640> | |||||
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| <解説> 1 この文書は、済口證文か?いや、違う! この文書、表題が「済口為取替證文の事」となっていて、一見、済口證文のように見える。 また、文書前段に書かれた四項目は、訴えの内容と反論、そして仲裁と合意の内容が書いてあり、これも済口證文の内容そのものである。 さらに、本文最後の一行に、「後証の為、双方連印取替せ申す処、依って件の如し」と書いてある。これも、まさに済口證文のことである。 だから、ついつい、この文書は争いが納まっての済口證文かと思ってしまう。 しかし、末尾の差出人と宛先を見れば、双方連印して取り交わした文書にはなっていない。済口證文であれば、訴訟人(原告)と相手方(被告)と噯人(取扱い人=仲裁人)が連印する。 ところが、この文書は、訴訟人の重兵衛と仲裁人の渡辺三左衛門の代理が印を押し、宛先は、相手方である小見村三役になっている。 これは一体どういうことだろう。 2 済口證文でなければ、一体、何の文書だ? 文書の末尾をよくよく読んでみれば、この文書は、済口證文を取り交した後で、それとは別に、重兵衛と仲裁人から村三役に出された文書であることが分かる。 なぜ、そんなことをする必要があったのか。 そのなぞを解くカギは、最後から二行目の「畢竟、お声がけ故と一同かたじけなく存じ候」の文言にあることに気づく。 つまり、「このように和解合意の結果に至ったのは、三役からのお声がけがあったからで、ありがたく思っております」と、この御礼を言うために、前段に和解合意の内容、つまり済口證文の内容を書いたのである。 では、なぜ、訴訟の相手に対して、このような礼状を書く必要があったのか。 3 争いの発端 重兵衛は、「数十年、受け売り酒役の役米2斗5升を納めて、揚げ酒渡世をしてきた」と書いてある。受け売り酒とは酒の小売りのことである。役米とは、それにかかる税のこと。揚げ酒渡世とは、酒の小売業、つまり、小売り酒屋のことである。 安政4(1775)年の小見村への年貢割付状(納税通知書)にも「諸売酒屋役 米2斗5升」とある。数十年というから、59年前のこの納税も重兵衛家が行っていたのではないだろうか。 安政4年の小見村年貢割付状は ⇒こちら 江戸時代の様々な商売の権利は「株」という言い方をしていた。株は売買ができた。株売買の時の領収書が株の証文になった。 重兵衛の株は数十年来のもの、売買証文も、おそらくその間必要もなく紛失状態だったのだろう。 どういうわけか、ここへきて、その証文の有無が問題になった。 重兵衛はそれを提示できない。ならば、重兵衛の株ではなく、小見村の株だ。と、「村役人並びに村方が主張した」と書いてある。 「村方」とあるが、それを強く主張した村民がいたということで、村の三役も他の村民も、その強硬論にあえて反対するだけの明確な理由もないまま、表向き同調した形になったということだろう。 4 落とし前をどうつけるか とは言え、数十年、重兵衛家が行ってきた稼業を今さら取り上げるというのも穏当ではない。 そこで、渡辺三左衛門の登場となる。 三左衛門は、酒小売組合の元締めである。長年、組合のメンバーであった重兵衛の難儀を座視できない立場にある。 株の持主たちは、株仲間という同業者組合を作る。文書冒頭の「当組合」とは、まさにそのことを言っている。 だから、三左衛門は第三者ではなく、仲裁人としては中立的な立場ではない。 おそらく、村三役はそれを承知で仲裁に入ってもらったのだろう。三左衛門は下関村の庄屋であり、小見村庄屋平太郎とは親しかったはず。もちろん、訴訟先である代官所も承知の上のはず。 証拠書類を提示できないのは重兵衛の落ち度。それを好機と見て権利を取り上げてしまおうとする一部の勢力。しかし、何十年も続けてきた稼業を取り上げるのは、誰が見ても、強引で不自然。強硬派の振り上げた拳を降ろさせるために、結局、金で落とし前をつけて問題解決。「どうだね、このあたりで、手を打たねかね」と、これが、お声がけの意味なのではないだろうか。 5 この文書に付随したはずの文書 ということで、この文書のほかに、取り交わした済口證文一通と拠出金額を書いた重兵衛の提出文書一通があることになる。残念ながら、その二通は見当たらない。 |
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| 釈文 | |||||
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| 読下し | |||||
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| 意訳 | |||||
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